―― あのねあのね、セナ、困っているの。
明日にも新学期が始まろうかという、一月初旬の日曜日。
お行儀がいいセナにしては、
そんなの年賀状でやったから良いんだよと邪険にされるまでもなく、
明けましておめでとうのご挨拶もすっ飛ばしての単刀直入。
何の話かをすぱんと口にした辺り、
気が短い蛭魔くんをお友達にして7年目、
やっとのこと学習した成果かなと思いきや、
「あのね? 誰にも言ったらダメだお?」
「…既にルイがいるのは良いのか?」
「だから、葉柱のお兄さんも内緒よ? ね?」
「お、おう。判った。」
小学生の小さな坊やの繰り出した、
こしょこしょとひそめられた声での、いかにも真摯な囁きに。
真っ当にも真剣真面目なお顔をしてしまう、
泣く子も黙る賊学総長、葉柱ルイさんだってことへと、
“…おいおい。”
いいのかそんなでと、
目元を眇めて呆れた妖一くんだったのは言うまでもなかったりする。
生まれてから経った歳月はまだ一桁という幼さの小さな坊や。
なのにそんなお顔が様になる、何かと蓄積の多かりし蛭魔さんチの妖一坊やと、
相変わらずのデコボココンビとして、始終つるんでいる間柄。
そりゃあ上背があっての逞しく、
お顔も鋭き恐持ての、ここいらの族を頂点にて仕切っておいでの高校生、
葉柱さんチのルイさんとが。
松の内が明けぬうちにもお招きされたはセナくんのお家。
葉柱さんチでお泊りしていたところを携帯で呼び出された、
子悪魔、もとえ、子ヒル魔くんだったが、
「何だよ、相談て。」
あらためて言うまでもないけれど、
年上のお友達が全国規模で山ほどいる妖一くんほどではないながら、
セナくんにだって、妖一くん以外にもお友達はたくさんいる。
他愛ないこと…たとえばお気に入りのアニメのお話とかは、
雷門くんとか鈴音ちゃんとするし、
お家で飼ってるネコのタマの様子が変だったりしたらば、姉崎センセへ相談する。
ママに叱られちゃったとか、ヒル魔くんとケンカしちゃったとかいう話は、
あのその進さんに聞いてもらうのだけれども。
「俺を呼んだってことは、パソコンか進かどっちかだな?」
「…うん。///////」
凄ぉ〜い、なんで判るのぉ?
羽二重餅のようなきめの細かい肌なんだろう、柔らかそうな頬を真っ赤にし、
潤みの強い大きなお眸々を見開いて驚いた坊やだったが、
“PCへの煩悶で赤くはならんだろうから。”
そうか、進にまつわることだなと、
それは葉柱にもあっさりと判ったほど、事情が通じている間柄。
だから呼ばれもしたのだろと、すんなり納得出来ちゃうその前に、
自分もまたセナくんにとっては“お友達”なんだろかと、
“一度くらいは“それで良いのか”という方向で
心の整理つか、けじめをつけといた方が良かないか?”
葉柱のお兄さんの代わりに妖一くんが、
極めて冷静な見解を抱いての、一歩離れて鑑みてしまったそうだけど。(苦笑)
「で? 進が何かしたんか?」
「凄ぉいvv 進さんのことって判ったんだvv」
「だから…。」
「でも、何かしたんかは ひどぉい。」
「おい…。」
「そうだな、せめて最初は“何かあったのか”だよな。」
「でしょおぉ? ヒル魔くんたら、いっつもそう。」
「あのな…。」
「厄介ごとだと決めつけられてもな。」
「そうなの。嬉しいお話も聞いてくれたっていーのに。」
「お・ま・え・らっ!」
どっから出したか、自動機銃バレッタ型の大きめのクラッカーをスパーンっと鳴らし、
「うわっ!」「ひゃあっ☆」
静粛にと二人を黙らせて。
…ついでにお部屋を紙吹雪まるけにした張本人様、
「だ・か・ら。進の何に悩んでて俺らを呼んだんだ、こら。」
大体、進にまつわる相談は桜庭だろうが。振り分け先を間違っとらんかと、
妙な方向へ憤りの矛先が向いているあたり、
ヨウイチ坊やもまた、少々感情的になってるご様子であり、
「…ヒル魔くんたら、どしたんだろ。」
「さて。」
こそこそと囁き合って、
不審な胸中を寄り添わせ合ってる誰かさんと誰かさんだが。
だから…あんたらがそうやって、
意気投合しているのが腹立たしいんじゃないかと。(笑)
まま、確かに脱線したままでは、いつまで経っても話が終わらない。
小さなセナくん、えとえっとと、やっといつものペースに戻っての、
その途端に…小さなお手々で手近なぬいぐるみを触ると、
含羞み半分、そのままうりうり揉みしだき始めたりするものだから、
「いっそ海産物の中へ埋めてやろうか。」
「みゃ〜〜〜っ☆」
「こらこら、ヨウイチ。」
頭上へ高々、あざらしさんを持ち上げた妖一くんだったその背中、
パーカーになってたフードを掴んで引き留めたルイさんが、
されどあれれと気がついたのが、
「また増えたな、海のお友達がよ。」
「え?」
最初が皇帝ペンギンで、次の年がアザラシの赤ちゃんで。
何故だか夏場にクラゲのモビールが窓辺に増えたという話は、
ルイさんも妖一くんから聞いていたけれど、
「こっちのイルカとそのマンボウは、もしかすっと新しいんじゃないのか?」
「…っ☆ そーなのっ!」
ワクワクっと大きめの瞳を瞬かせたセナくんとは逆に、
「進からのもんだってトコまで判るのか?」
連れの意外な観察眼へ、いかにも訝しげなお顔になった妖一くんへ、
カメレオンズの総長様は、あっけらかんと答えてのいわく、
「だってこれ全部、○○水族館の特製品だからな。」
この小さくて可憐な想い人への贈り物にと、
最初のペンギンを小脇に抱えているところを目撃したのを皮切りに。
あの、高校最強ラインバッカーさんが、
凛と冴えての精悍で、ただただ武骨そうな印象とは正反対の、
こういった可愛らしくもファンシーなものへも、
どうやら関心を寄せるようになったらしいこと、
妖一もまた知ってたけれど。
「どういうこだわりからか、一応は統一しての贈り物であるらしいぞ。」
だから判ったと言う葉柱へ、
“そうだってことが判るルイの方が、俺には新発見だぞ。”
よもやこっそり集めてなかろうなと、
疑うたぐりの眼差しになった妖一くんだったけれど。
そっちは今はお話が別なので さておいて。(苦笑)
「あのねあのね、セナの悩みは、このマンボウさんのことなの。」
「…ほほぉ。」
期せずしてというか、脱線の果てに本題へと辿り着いてるところがご愛嬌。
よほどのこだわりあっての作りだろうか、
冷たく濡れてる筈の、海の生き物だってのに、
その手触りは高級な毛布もかくやという、極上クラスのふわふわでほかほかで。
丁度陽あたりのいいポイントに置かれたそのマンボウさんの、
背から腹への、淡い青から白へと至るグラデーションもファンシーな。
座布団みたいに平らかな胴の上、
これまたふわふわしてそうな、セナくんの小さめのお手々が乗っており、
「あのねあのね、セナ、このマンボウさんに“ゆーわく”されて困っているの。」
―― はい?
悩ましげにお眸々を眇め、口許も うににと歪ませて。
困ったことですのというお顔をしてはいるけれど。
それにしては…問題のマンボウさんから手を放さないどころか、
手のひらを広げては撫で撫でと、柔らかい毛並みを楽しんでばかりいて。
「ゆーわくってのは誘惑のことか?」
「そvv ゆーわくvv////////」
きゃあvvと恥じらい、真っ赤っ赤になった坊やを前にして、
「…。」
「〜〜〜。」
妖一坊やの小さな拳が秘密裏に握られたのは、何とか葉柱のお兄さんが掴み止め、
まあまあ押さえなと窘めて差し上げた好意も何のその。
―― あのねあのね、このマンボウさんを此処に置いとくとね、
どうしてもお昼寝しちゃうの、いつの間にか。
昨日なんて、進さんからのお電話がかかってたのに気づかなくって。
そいで、何かあったのかって、
進さんたら練習もそこそこにお家まで来てくれてね?
ガッコが始まってもしばらくは、セナたちお昼まででしょう?
またまたお昼寝のゆーわくに負けちゃうかも知れなくて。
そしたら進さん、また心配しちゃうかも。
「ねえ、どうしたらいいんだろ?」
「〜〜〜〜〜っ。」
いかにも悩ましげなお言葉を並べるお友達を前にして、
再び、今度はイルカさんを、無言のまんま頭上へと持ち上げた妖一くんで。
“…まあ、あのくらいは当たっても怪我はしなかろうしなぁ。”
こらこら葉柱さん。止めないのか、あんた。(笑)
あのね、セナは進さんと、
それから進さんがくれたぬいぐるみさんたちが、
ペアリングよりも 大〜好き♪
〜 どさくさ・どっとはらい 〜 08.1.06.
*一応、お題はクリア出来てるんじゃないかなと。(く、苦しい?)
こちらさんもまた相変わらずマイペースな、
ちびセナくんと進さんみたいですね。
こんなラインバッカーが高校最強だなんて、
罰が当たらないだろか。(こらこら)
あ、それと。
こちらのコーナーに upするものは、
原則、お兄さんたちが高校生Ver.ということで、どかよろしくです。
セナくんも子ヒル魔くんも、まだ10歳未満です、はいvv
**

|